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金融審・リスクマネーWG報告〜見えてきた日本版投資型クラウドファンディング

12月20日、金融審議会の下に設置された新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループが報告書を取りまとめて散会となりました。

本報告書は金融庁のホームページでお読みいただけますが、委員出席されていた大崎貞和氏(未来創発センター主任研究員)が、ポイントを的確にまとめておられます。大崎氏のメモはこちらからお読みいただけます。大崎貞和氏 金融審リスクマネーWG報告メモ

ここでは、本WGの一番の目玉と言われた投資型クラウドファンディングについて、審議の様子も交えながら報告させていただきます。

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本WGに諮問されたのは、創業から間もない会社や個人が、インターネット上で事業計画を披露し、それに共感した個人から広くお金を集めることができる仕組みを日本でも可能にするための制度整備について検討せよ、というものでした。

金融庁案では、資金を調達したい企業や個人と投資家との間に、両者を繋ぐ仲介業者が存在し、その仲介業者がインターネット上でポータルサイトを運営するというイメージ図が描かれていました。

この仲介業者は金融商品取引業者に該当するため、WGでは、この仲介業者に対する規制のあり方が主要な論点となりました。

ところで、日本版の投資型クラウドファンディング(以下、CFと呼びます。)では、株式を発行して資金を調達する「株式型」と、匿名組合出資という方法で資金調達を行う「ファンド型」に分けて、それぞれの仲介業者について規制を考えるという枠組みになっています。

というのも、わが国では、企業が株式を発行して資金調達をする場合は、仲介業者は第一種金融商品取引業者(証券会社)でなくてはなりません。証券業は登録制になったとはいえ参入要件が厳しい上に、証券会社の自主規制機関である日本証券業協会は、投資家保護の観点から非上場株式を一般個人に勧誘することを禁止しています。そこで、「株式型」については、これらの規制をどう緩和して、株式型のCFを事実上解禁するかが論点となりました。

他方、「ファンド型」は現行法制上でも可能であり、実際、いわゆるファンドの販売等を行う第二種金融商品取引業者がインターネット上にポータルサイトを開設し、そこで匿名組合出資を募って、企業に対する貸付金という形で投資を行うという方法で、すでに投資型CFと呼んでいいものが行われています。

ただし、第二種については、今年もMRI事件等が起こりました。規制が緩く、問題がある事業者が多いことも事実です。これを契機に適正な規制を入れるという狙いもあったようです。

本WGの報告書では、次のような提案が行われています。

第一に、投資型CFの仲介業への参入を促すために、「少額」のCFを仲介する場合に限って、業規制の特例を設け、参入の財産要件(最低資本金等)を緩めることが提案されています。具体的には「特例第一種金融商品取引業」と「特例第二種金融商品取引業」の二つが追加されることになります。

なお、「少額」の金額については、例えば一人当たり50万円以下、発行総額1億円未満という数字が示されています。

第二に、インターネットであるが故に詐欺的な行為に悪用される可能性もあることから、現行法制下では特段定められていない義務を、CFの仲介業者に課すことが提案されています。具体的には、CFの仲介業者に対して、発行者に対するデューデリジェンスや、インターネットを通じた情報提供等のための体制の整備、発行者や仲介者自身に関する情報提供を義務づけ、情報提供を怠った場合等の罰則も整備することが提案されました。

さらに、具体的な規則についてはそれぞれの自主規制機関が定めることになりますが、そうした規制が機能するためには、仲介業者に自主規制機関に入ってもらう必要があります。

本WGでは、この点が重要な論点となりました。

というのも、第二種については、自主規制機関(第二種金融商品取引業協会)への加入率が3%未満という状況にあります。

多くの委員から、協会加入を法令で義務づけられないのかという質問が出ましたが、憲法で保障された自由(結社しない自由)との関係で加入を法令で強制することはできないとのこと。

そこで、次善の策として、加入しない事業者には、自主規制規則が要求するのと同程度の社内規則とその遵守を確保するための体制の整備を法令で義務づけ、加入を促そうということになりました。

これだけでは実効性には疑問が残ります。仲介業者が協会に入った方が得と感じさせるような状況をつくり出すことが必要でしょう。

以上のように、報告書で提案されたことは大枠に過ぎず、制度の具体化は、これから日本証券業協会と第二種金融商品取引業協会が定める自主規制規則に委ねられることになりました。

詳細が見えてくる来年2〜3月頃に改めて報告させていただく予定です。

なお、当会では、12月9日に日本証券業協会と第二種金融商品取引業協会に協力をいただき、投資型CFに関する自主勉強会を開催しました。当会メンバーや弁護士、ジャーナリストの他、個人投資家や起業しようと思っている人、NPOバンクに関わっている人、CFの仲介業に関心を持っている人等、実に多彩な方々が参加してくださいました。

ここでは、出席してくださった方々からのコメントを紹介して、私の所感に代えさせていただこうと思います。

まず、起業家という方から、

「株式型については、5千万円を集めるのに百人も株主が生まれてしまうことになる。創業者にとっては大きな負担だ。この仕組みを使って資金調達をしようと思う創業者はそういないのでは。」

一方、個人投資家の方から、ファンド型について

「投資家にとって大切なのは、買ってからのモニタリング。匿名組合出資は、営業者にお金をあげてしまうという関係。投資家に何の権限も与えられないようなものに投資はできない。投資としては致命的な欠陥があると思う」という意見や

「仲介業者の自主規制機関への加入は最低条件。ただ、自主規制機関にお願いできるのは仲介者への規制でしかない。発行者については、自主規制機関は入っていけないのではないか。モニタリングは誰が担うのか」といった懸念の声が聞かれました。

また、NPOバンクに関係している方からは、

「今回のCFのモデルになっているのはミュージックセキュリティーズ社。ミュージックさんは上手くやっていると思うが、あれは小松さんの人柄、震災の後の国民の絆を大事にする動き等等、偶然が重なったから。稀有なケースであるのに、あれを標準形として制度設計がなされていることが心配」という指摘がありました。

この他、「インターネットを通して資金集めが行われるといっても、事業を直接見聞きする機会があることが必要。おらが街の何とかさんがやっているあれを支援しようとか、沖縄にあるあのレストランを支援しようというようなものなのではないか」

「ここから第二第三のアップルやグーグルが出てくることを期待するのには無理がある。小さくても意義のあることをやろうとしている会社や個人を支援する仕組みと考えるべきでは」といった意見も出ていました。

(報告者:永沢裕美子)