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インタビュー第1回 丹野美絵子さん (独立行政法人 国民生活センター理事)

金融商品、中でも投資を目的として提供される商品と、消費者はどのように向き合ったらよいのか。トラブルの事例とトラブルを防ぐヒントを、当会の基本会員でもある丹野美絵子さんが語った。

「消費者には投資への根本的な理解、事業者にはサービス提供者としての在り方の再確認が求められる」

丹野美絵子(たんの みえこ)さん 独立行政法人 国民生活センター理事P1000351

消費生活相談のうち、金融のトラブルは13%

Q  国民生活センターでは、消費者からの相談を集計・分析していると聞いています。金融商品のトラブルにはどのようなものが多いのでしょうか?

丹野  最初に、国民生活センターと、全国にある消費生活センターの関係について説明しておきましょう。消費者安全法という法律により都道府県には消費生活センターの設置が義務づけられています。市町村の場合は努力義務です。これにより自治体が運営する消費生活センターが全国に700カ所以上あり、3000人以上の相談員がいます。全国どこに住んでいても相談ができるようになっているわけですね。いわば消費者の駆け込み寺です。

そして全国の相談を集約するのが国民生活センターです。国民生活センターは集計・分析・問題点の洗い出しを行い、消費生活センターへフィードバックします。必要な情報は一般消費者にも提供しています。同時に、業界団体や国に要望を出します。全国の消費生活センターと連携を取りながら、消費者庁の役割を現場で支えるのが国民生活センターといえます。

消費生活に関する相談は2012年度は全国で年間85万件。金融のトラブルは、うち11万件。約13%ですね。多いときは17万件ありましたが、平成23年から減ってきています。ただし、減っているから、よい方向に向かっているのかというと、必ずしもそうではないと考えています。

Q  トラブルの中身は具体的にどのようなものですか?

丹野  トラブルになる金融商品は、大きく分けると、まっとうな金融商品と、そうじゃない商品があります。まず、まっとうじゃない方から、お話ししましょう。

福祉、健康、環境をテーマに高齢者を勧誘する

丹野  例えば、「金地金の分割前払い取引」(25年などの長期にわたって分割前払いし、金の現物を受け取れるのは支払い完了後という契約)や、ファンド型投資商品(集団投資スキーム)を装った詐欺的商品・取引などがあります。とくにファンド型投資商品では、社会貢献、健康、環境をテーマに勧誘が行われます。たとえば環境問題でCO2排出権という言葉がニュースで飛び交うときに、そのキーワードでまがいものを作って投資させる。はっきり言って中身は何でもいいのです。「そういえばニュースで話題になっている、聞いたことがある」ということで信用させて取引させるのですから。水資源、電力、シェールガス、医療機関債、本当にいろいろありますが、共通点は、高齢者が被害者であることと、手法が電話勧誘や訪問勧誘であることです。

Q  高齢者が被害に遭いやすいのはなぜでしょうか?

丹野  日本では金融資産が高齢者に偏在しているのが理由のひとつ。また、昼間に電話をかけたり、訪問したとき、自宅にいて対応するのは高齢者か主婦です。高齢者は、過去に利回りのいい金融商品を体験しているので、そこに付け込まれるという面もあります。一時払い養老保険、ビッグなど金利が高かった時期の記憶があり、デフレで超低金利が続く中で、銀行に預けるよりも利回りの高いものがあるはずだと思ってしまう。

Q  被害を防止するための対応策は取られているのでしょうか?

丹野  たとえば金融商品取引法は、集団投資スキームをみなし有価証券として取り入れました。目的の一つは、金融商品取引法を横断的な法律にして、規制の隙間を失くすことです。取扱事業者は第二種業者として登録制になりました。一時的にはファンドを標榜したおかしな商品は減ったのですが、まだ被害があります。法の目的が、ちゃんと果たされているか。「貯蓄から投資へ」は国策だと思われますが、国は責任を持って確認する必要があるのではないでしょうか。

Q  まっとうな金融商品と、まっとうじゃない商品は、どのようにして見分ければいいのですか? 事業や投資は、ちゃんと取り組んでも、失敗することもあります。

丹野  見分ける方で言えば、まずは事業者の参入規制です。銀行・保険会社は免許ですし証券会社は登録です。集団投資スキームであれば登録または届出。商品デリバティブだと許可になりますが、そういうものをクリアーしているかが最低限のポイントです。あと商品の仕組みや利益の出る根拠が明確かなども重要です。それから絶対リスクがないといわれたら絶対おかしい。投資にはありえないですから。心配なときは消費生活センターに相談してください。

それから事業者がちゃんと取り組んでいても失敗する話は、そういう場合は、トラブルにはなりにくいです。事業者が投資の内容とリスクについてきちんと説明し、投資する側もリスクを充分理解していれば、多数の消費者が相談するトラブルにまでは発展するケースは少ないからです。

トラブルになるのは、「必ず儲かる」、「絶対大丈夫」などと口頭で勧誘するケース。「リスクがない」と言って、貯蓄だけをしている人を投資に引っ張り込むわけです。あとリスクがあるのかなと思ったとしても、ほんの少しのリスクと思い込んでいるケースでは、具体的に、投資した額の8割減るとか、全く戻ってこないかもしれないとは想定していないのです。このことはまっとうな金融商品のトラブルにもあてはまります。

P1000355適合性の原則の確認が形式化?

Q  では、まっとうな金融商品であってもトラブルになる事例とはどういうものですか?

丹野  銀行や証券会社が扱う、まっとうな金融商品であっても、仕組みがよくわからないまま投資して損をしたら、トラブルになります。どういう商品なのか、どうして利益がでるのか、どんなときに損をするのか、理解しないまま買って損をしたら苦情になります。金融機関側に、わからなくても儲かったときは文句は言わないじゃないかと反論されますが、それは人間ですから仕方ないです。

要は、その商品について、リスクもリターンも含めて本当に理解してもらったのか、顧客の資産、経験、目的にあった商品なのか、が適切に行われないことがトラブルの原因ですから。実は2012年暮れから株価が上昇するなど、利益が出ている金融商品が多いためか、トラブルは減っているようです。しかし、だからと言って、金融機関がトラブルがたくさんあったときと同じ販売方法を続けていては、また運用環境が悪くなったときに同じ問題が起きるでしょう。

Q  金融機関には説明義務と適合性の原則にあっているかの確認が求められていますが…。

丹野  そこが形式化していないか…と感じます。もっと言えば、デリバティブ組込商品が代表ですが、そもそも普通の人が理解するのが困難な金融商品について、売ることは、やめてもらえないのかと。説明義務も適合性原則も、直接消費者に接する行員や営業マンなど個人の倫理感は大事だけれど、そこに任せてしまうのはどうか。事業者が、会社の方針としてどうするかが重要です。

高齢者への対応は、確かにどこの金融機関も実施しています。顧客にアンケートを取り、経験、資産、目的などをチェックする。ここまでは適合性の観点から顧客全員に行います。その後さらに、高齢者すなわち一定年齢以上の人に預金・国債以外のリスク商品をすすめるときは、子どもや配偶者に同席してもらう、複数日に亘って説明する、または役職者が立ち会うなどです。しかし現実には難しい面があります。高齢者は、子どもに自分の財産を知られたくない、子どもの同席を嫌がる。複数日にわたって説明されるのも面倒だ、役職者にはお礼を言われただけ、という高齢者もたくさんいます。。

Q  高齢者の被害を防ぐための方法が現実に即していない?

丹野  高齢者の特性を把握しておかないと。私も含めて、高齢者は記憶が風化する。何年か経つと、聞いた覚えがないと言い出すかもしれません。トラブルに陥った人の話を聞くと、「銀行を信用した、銀行がいいと言うから買った、少しはリスクがあると言われた気がするけど」と。結局、「言った、言わない」というトラブルになるわけですね。

消費者がもっとも信頼し、依存しているのが銀行でしょう。銀行に公益的な側面を見ています。一方、証券会社は株を扱うから上がり下がりはあるだろうと。銀行はもともと預金と融資と為替が3大業務でしたが、そうではない投資商品で利益を上げようとしているようです。銀行が消費者向けに預金を勧誘しなくなったことは消費者にとってはリスクが高まったのかもしれません。そうであるならば、元本保障でなくてもいいから、消費者がこれを買いたいと思えるような低リスクで魅力ある商品を提供していただけないだろうかと思います。 事業者には、トラブルが減っている今こそ、提供する商品そのものの仕組み、リスク商品を販売する際の方法について、これまでのトラブル事例をもとに考えてほしいと思います。

高齢化社会にふさわしい金融商品の研究余地あり

Q  消費者自身が気をつけるべきことは、ありますか?

丹野  みなさん一生懸命働いて、本業の仕事でお金を稼いでいるわけですね。本業で稼いだお金を、さらに別の方法で増やすのが投資です。まめでなければダメですね。長く投資している人を見ていると、こまめに株価や基準価格を確認し、自分の中で損切りのルールを作っているなど、方針を決めて取り組んでいます。ラクして、人任せで、お金儲けはできない。それにうまい話はあなたのところには来ません、うまい話がきたら、本当だろうかということですね。まっとうな金融商品も、そうではない商品も、こういった投資の本質を理解していれば、自分が理解できないものには手を出さないはずです。

しかし、そうは言いながらも、おかしな商品がはびこらない仕組みを作らないと、消費者は安心して暮らせません。まっとうではない商品については、だます方が完全に悪い。ちょっとした心の隙間に入り込み、いつもは聞かない話を聞いてしまい、そこから被害に遭うことになります。まっとうな金融商品であっても、消費者に販売する商品として、ほんとにいいのだろうかと。特にデリバティブを組み入れた商品については、大きなリスクがあることをまず充分に説明することがスタートでしょう。「こんなにいいことがある、あんなにいいこともある、だけど、少しリスクがある」という説明は、どうでしょうか。

金融商品を販売する人が、消費者教育の担い手の一人であるくらいの考えで対応していただけたらと真剣に思います。現実的にはなかなか大変なことだと、理解してはいますが。

Q  どのような金融商品が今の時代にふさわしいのでしょうか?

丹野  一言でいえばシンプルなもの。金融機関は、お客様は多様だから、多様なものを作っていると言いますが、現実には、売る側と買う側にずれがあるのではないでしょうか。ずれないためには、わかりやすいもの、シンプルな仕組みものがいいと思います。高齢化の時代にあって、高齢者が使いやすい金融商品についても、もっと研究していく余地があると思っています。

 

このインタビューは、2013年11月に行いました。

(担当 坂本綾子)