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インタビュー第4回 河上正二さん(消費者委員会 第2次・第3次委員長)

2009年、消費者庁の発足とともに動き始めた消費者委員会。その役割とは? 消費生活への影響は? 河上正二委員長にうかがいました。

世界的に見ても独自の機能を持った消費者委員会。高齢化、IT化、グローバル化が進展する時代に、果たすべき役割は大きい

DSCN0948内閣府「消費者委員会」委員長
河上正二さん

2011年9月より内閣府「消費者委員会」委員長。東京大学大学院法学政治学研究科教授。専門は民法、消費者法、医事法。

消費生活にまつわる重要事項について調査、審議、建議ができる第三者機関

Q    一般の消費者には、消費者委員会の存在や役割はまだあまり知られていないかもしれません。消費者委員会は、2009年に内閣府に設置された新しい機関ですが、どのような位置付けになりますか?

河上  消費者庁という司令塔の下に、各省庁でバラバラに行っていた消費者政策に横串を刺して、一貫して消費者目線で政策を考えていくことが必要だという理想が出発点です。消費者委員会は、「消費者庁及び消費者委員会設置法」という法律により2009年9月に誕生しました。

実際に消費者委員会を立ち上げる段階ではずいぶんと議論があり、当初は消費者庁の中にシンクタンクになるような審議会を作る案もありました。しかし、政府の中にそういう機関があったのではちゃんとした監視ができないのではないか、独立した委員会を作れという意見もあり、国会で約90時間にも及ぶ論戦の末、消費者庁とは別の、中立の第三者機関として内閣府に設置されました。当委員会は、政府の一機関ですが、自ら調査及び諮問に応じた審議や、各省庁への建議や意見表明、内閣総理大臣への勧告などができる、消費者庁からも、国民生活センターからも独立した機関です。

足元が自由で、権限も相当大きい。いろいろなことができる面白い機関で、世界的にもこういう機能を持った機関はそうありません。

◎消費者委員会の位置付け

消費者委員会の位置づけ

※消費者委員会HPより PDF画像はこちら→消費者委員会の位置づけ図

本会議や部会・専門調査会での審議が法改正にも影響を及ぼす

Q  具体的にはどのようなことを行うのですか?

河上  最近の大きな成果としては、景品表示法への課徴金の導入等に関する審議があります。消費者委員会では、各種の消費者問題について自ら調査・審議を行い、建議等の意見表明を行うこともできますし、内閣総理大臣や各大臣、消費者庁長官から諮問を受けての調査・審議も実施します。

景品表示法については、表示と異なる食材を使用した食品等の不適切な表示問題への対応の流れの中で内閣総理大臣の諮問を受け、消費者委員会の中に専門調査会を作って審議の上、答申を取りまとめました。それを受けた消費者庁が法案化を行い国会に提出し、2014年11月19日、「不当景品類及び不当表示防止法等の一部を改正する等の法律」が成立しました。この景品表示法のような特定の政策課題についての諮問は、第3次消費者委員会(2013年9月〜2015年8月)で初めて受けましたが、比較的うまく消費者庁とコラボできたのではないかと思っています。

現在は、内閣総理大臣より同様の諮問を受け、「消費者契約法」、「特定商取引法」の見直しについて、専門調査会を作って議論しています。消費者委員会の審議の体制としては、ワーキング・グループを作る、専門調査会を作る、部会を作る、の3通りくらいの方法があります。

消費者委員会図1

消費者委員会HP(消費者委員会について→http://www.cao.go.jp/consumer/about/)より。

消費者庁とは別組織としての緊張感を持ちつつ、連携も

Q  消費者庁と、消費者委員会の関係は?

河上  先日、ノンアルコールビールにトクホ(特定保健用食品)の許可を出すかどうかという問題で、消費者委員会はノーと言いました。若い人たちのアルコール誘因になる可能性があり、そこが危険だから、その手当ができるまでは、トクホにするべきではないと。一方、消費者庁は悩んだ末、イエスとした。あれを見た時に、みなさん、アッと、消費者庁と消費者委員会は違うのだ、別組織なのだとわかったと思います。消費者委員会は消費者委員会として一つの考え方を持って答申を出します。それを守れという権限はないが尊重することになっている。消費者委員会から出したノーには、いろいろな条件を記載していました。それを条件として消費者庁は許可しました。例えばコンビニではお酒のところに置く、未成年には売らない、清涼飲料水と一緒には置かないなど。

Q 消費者庁から依頼を受けることもあるのですか?

河上  公共料金については、これまでなら経済産業省の資源エネルギー庁が一定の審査をして、料金値上げの申請に許可を出す形でした。しかし、よくよく考えてみると公共料金がどのように決まるかが見えない、これを少しでも透明化して、公共料金の策定に際し消費者の意見を聞いてもらえる仕掛けにすべきだということが消費者委員会で話題になりました。建議を出そうとした矢先に東京電力の値上げ申請があった。結局、消費者庁として審査のための一定のガイドラインを出すから、それを消費者委員会で審議してほしいと。それ以来、公共料金等専門調査会で、家庭用電気料金の値上げ認可申請に関する調査会を開いています。その後、いくつかの申請について、こちらが要求したよりは圧縮幅が小さくなりましたが、ある程度、料金の値上げ幅を圧縮して、事業者に合理化を求めるようなことはできるようになってきました。

値上げだけではなく発送電分離など電力システム改革に伴う消費者目線での取り組みや、鉄道運賃についても、公共料金の大きな課題です。

Q 今後の課題としてはどのようなものがありますか?

河上  特定保健用食品等の在り方に関する専門調査会で扱っている機能性を表示する食品の問題があります。日本の食べ物は医薬品か食品しかない、食品は効能効果を表示してはいけないということが大原則です。これを例外的に表示できるのが、トクホや、2015年4月に始まった機能性表示食品制度。

機能性表示食品は、民間で自由に、提供する事業者側が大丈夫と立証できれば、消費者庁への届け出だけで表示してよいという仕組みですから、危険なものも出てくる可能性がある。消費者委員会でもずいぶん議論をしましたが、結局、ゴーサインが出て動き始めました。すでに150近い機能性表示食品が届け出られ、消費者庁では数十については届け出を認めました。機能性表示食品がこういった仕組みで動き始めてみると、ではトクホ制度は何だったのだと。国が機能性と安全性を確認した食品について健康マークをつける意味をもう一度、考え直さなければいけない時期だろうと思います。現在1,500以上のトクホ商品がありますが、十数年前に当時のエビデンスで許可を得たものが今でも通用するのか。技術の進展に応じて更新すべきではないか、トクホ制度も改良していかねばならないのではないか。論点整理をしたので、第4次の委員会で進めてもらいたい。

新たな官民連携の在り方を探ることが、消費者行政の大きな課題

河上  消費者行政における新たな官民連携の在り方を中長期的に考えることも、これからの日本の消費者行政において重要な課題の一つです。

ご存知のとおり日本政府にはお金がない。消費者庁の職員は三百数十名、消費者委員会を支える事務局職員は十数名で非常勤職員を合わせてもわずか30名程度。これで日本の消費者行政を十分にコントロールしたり、執行したり、監視したりすることはできません。しかし現実に問題はある。そうなると、官がやりきれない部分を補完するために民間の力を借りた方がいい場面があるはずです。質の問題としても、消費者庁や消費者関連の行政機関の職員だけではどうしようもないところを民間の知恵やノウハウを借りながら充実させる。天気予報の分野で例えて言えば、気象庁の天気予報があり、さらに、一般消費者による参加型の仕組みを採用している民間の気象情報サービスを通じて各地の天気情報も集まってくるというようなイメージです。

消費者団体訴訟制度では、内閣総理大臣の認定を受けた一定の消費者団体が、事業者の不当な行為の差止請求や、不当な事業者に対する被害回復の請求をすることができるような仕掛けができました。これは本来、行政が行うべきことで、公益目的を達成していくための官民連携があっていいということ。そういう民の活躍を支援することが官には必要で、経済的な支援をして民がうまく動けるよう仕掛けるなど、官民連携においては官が一定の役割を果たさなければいけない。

例えば「フォスター・フォーラム」という民間団体が、健全な金融市場の在り方や、個人投資家の権益を守るための情報を発信し活動しているとしたら、それとうまく連携することで金融庁が本来市場にこうあってほしいという形を実現できるかもしれない。第3次消費者委員会では「消費者行政における新たな官民連携の在り方ワーキング・グループ」においてヒアリングや検討を行い、第4次消費者委員会につなぐべく報告書をまとめて公表したところです。

質のいい情報を届ける目利きができる媒体が必要

Q  金融分野においても、いくつもの建議や提言が行われています。

河上  金融は消費者問題ではないと言われた時代がありました。しかし今の生活経済の中では、庶民も投資商品を購入することが避けられなくなっています。個人投資家の保護は、消費者問題として重要な意味を持ってきた。お金持ちだけの話ではなく、コツコツと貯めた命金(いのちがね)を奪っていくのはいかんと。消費者教育の重要性から消費者教育推進法ができましたが、食育と並んで金融教育も取り組むべき大事な課題です。

◎ 消費者委員会による金融関連の建議・意見表明

・ 「詐欺的投資勧誘に関する消費者問題についての建議」(平成25年)
・ 「クレジットカード取引に関する消費者問題についての建議」(平成26年)
・ 「商品先物取引における不招請勧誘禁止規制に関する意見」(平成25年)
・ 「クラウドファンディングに係る制度整備に関する意見」(平成26年)
・ 「商品先物取引法における不招請勧誘禁止規制の緩和策に対する意見」(平成26年)
・ 「適格機関投資家等特例業務についての提言」(平成26年)
・ 「電子マネーに関する消費者問題についての建議」(平成27年) など
(消費者委員会HP「建議、提言、意見等及び報告書」より抜粋)

河上  消費者に届く情報の量はものすごく多くなってきています。しかし、その中に悪い情報が入ってくるから困る。山ほどある情報の中で、消費者にとって意味がある正しい情報かどうか目利きできる人が少ない。消費者に適切な情報を提供できる中間的な媒体が必要で、あの団体に聞いてみれば、ある程度信頼のできる情報が手に入るという、そういう活動が大事です。官民連携の一つの方向はそういうことではないかと思っています。

消費者委員会で取り上げるべき金融に関するテーマは山ほどあります。保険はまだ手付かずですし、昨年当委員会から建議を発出しましたが、クレジットカード取引についても、技術の発展によりこれまで起きなかった問題が起きています。
高齢化、情報化、国際化に伴う消費者問題も起きています。

生身の人間にとって安全なのか、安心できるかを基本にDSCN0954

Q  幅広いテーマを扱っていますが、テーマに関わらず大事にしている視点などはありますか?

河上  街でお店に行くなど自分自身も消費者です。一消費者として見たときにどうかということ大事にしなければと思っています。基本は生身の人間で、生身の人間にとって安全なのか、安心できる生活環境なのか、自分の意見がうまく聞かれているか、情報がふさわしい形で提供されているか、一人の人間が生きていくときの決定が守られているだろうかということをいつも考えるようにしています。

最近、思うのですが、人間はそんなに経済合理性だけでは動けない。年をとると、感覚だとか経験値など、いろいろな能力が下がっていく。しかし、そういう年齢の人がある程度安心して生活できる社会の方が財産だと思う。今の若い人も将来は歳をとるわけですから。人間というのは弱いなと思うのです。

弱い人間がみんなで肩を寄せ合って生きている社会ですから。弱い人たちの権益を守る、それは広い意味で消費者を守ることになるのだろうと思います。やっと今、消費者の選択が社会を変えるという意識に少しずつ変わりつつありますね。消費者に支持される事業者の活動が社会の中で受け入れられて持続していく、発展していくと。消費者が何を選ぶかで市場そのものが変化していくのだということは前々から言われてはいましたが、消費者自身がそれを考えるようになってきたのは最近ですよね。意識が変われば市場も変わる。金融市場も一人一人の消費者の選択により、あるべき市場が作られていくのだろうと思います。

消費者も勉強しなければならないし、自分の選択に責任を持たなければならない。いい加減なものに流されないで、いいものを選ぶことで、方向づけをしていく。一人一人の消費者は弱いけれど、マスになったときの消費者は社会を動かしますから。

 

このインタビューは、2015年7月29日に行い、8月にまとめました。

(担当:坂本綾子)