今回のテーマは、追加型投信の4割を占めるに至っているファンド・オブ・ファンズです。
講師は、5月に一般会員になっていただいた山本茂樹氏にお願いしました。
大学を卒業後、証券会社と投信会社で投資信託の商品企画を担当され、退職された今でも、新設投信の約款に目を通されている、まさに商品企画の“職人”です。
山本氏には、投資信託協会はFoFsの利用に際してどのような自主規制ルールを定めているのかをレクチャーいただき、現存するFoFsについても言及いただきました。
ご参考までに、レジュメ(図表は省略)を添付します。
***********************************
ファンド・オブ・ファンズについて考える(第一回)
〜投資信託約款調査から見えてくる問題・疑問点〜
講師: 山本 茂樹氏
編集: 永沢 裕美子
- はじめに
l 最近の投資信託をめぐる3つの事件
① 今年3月に、東京地裁がみずほ側に毎月分配型投信の「説明が不適切」として賠償を命じた事件http://www.nikkei.com/article/DGXNZO68447490Y4A310C1CR8000/
② 昨年6月に金融庁がプラザアセットマネジメントを処分。先日閉会した国会でも取り上げられた事件http://www.fsa.go.jp/news/25/syouken/20130702-1.html
③ 証券検査における指摘事項(投資信託の乗換勧誘における不適切な勧誘―甲ブラジルレアル建投資信託から乙ブラジルレアル建世銀債券への乗換勧誘を行う一方、他顧客には乙から甲への乗換勧誘を行った。)http://www.fsa.go.jp/sesc/kensa/shitekijikou.htm
l この三つの事件の共通点として、海外のファンドに投資を行うファンド・オブ・ファンズ型の投資信託が関係しているということ。いずれも、通常では考えられない高額の配当金を継続的に払い出していた。[山本茂樹1]
- ファンド・オブ・ファンズとは
(1)そもそも投資信託とは
l 投資信託と呼ばれている金融商品は、投資信託法(正式には、投資信託及び投資法人に関する法律。以下、投信法と省略)に基づいて投資信託約款が作られている。
(注)
わが国の投資信託は、投信委託会社を委託者、信託会社を受託者とする特定金銭(外)信託契約の受益権を小口証券化したものと解されている。この特定金銭(外)信託契約の内容を記載したものが投資信託約款。投信委託会社と信託会社の間で成立した投資信託約款は、投信法4条及び同法の委任を受けた施行規則等により、内閣総理大臣への届出が義務づけられ、その記載事項も法定されている。届出について具体的に定めた投信法施行規則についてはhttp://law.e-gov.go.jp/htmldata/H12/H12F03101000129.html
投資信託は、販売勧誘の方法、投資対象、運用方法等によって様々に分類されるが、法令で規制を定めると膨大かつ柔軟性に欠けることになるため、金商法上の自主規制機関である投資信託協会に細かなルールを自主規制規則として定めさせている。
投信協会の規則集はこちらから→https://www.toushin.or.jp/profile/article/
l ファンドがファンドに投資を行う多層的なファンド構造の投資(ファンド・オブ・ファンズ)は、2003年に解禁された。
(2)ファンド・オブ・ファンズの定義と要件
l 投信協会の「投資信託等の運用に関する規則」及び「細則」で具体的に規定。添付ファイルを参照のこと。
l ファンド・オブ・ファンズの定義は規則の2条3項
・[山本茂樹2] 投資信託証券への投資を目的とする投資信託をいう。。
・ 投資信託証券とは、投資信託及び外国投資信託の受益証券並びに投資法人及び外国投資法人の投資証券。
l ファンド・オブ・ファンズの要件(協会の上記規則及び細則で規定)
① 公募のファンド・オブ・ファンズは、複数の投資信託証券へ投資すること(規則23条)
② 投資対象ファンドの主な条件
1) 投資対象ファンド(国内)は、原則公募ファンド。私募の場合は、公募ファンドと同一基準で設定されたもの。(規則22条1項1号)
2) 組入れ投資信託証券の信託報酬率等及び募集手数料等主たる支払い費用を投資信託証券毎に開示するもの。(規則22条1項5号)
3) 当事国の投資信託証券の制度及び開示の法的整備ができていること(細則3条1号)★
4) 純資産総額が1億円以上(細則3条2号イ)★
5) 管理会社又は運用会社の純資産総額が5,000万円以上(細則3条2号ロ)★
6) 財務諸表について、監査人の監査を受けていること(細則3条ワ)★
7) ファンド・オブ・ファンズへの投資を行わないこと(細則8条)
★は外国の投資信託証券のみに関する規制
(3)問題点
l 外国の投資信託証券に投資を行うFoFsでは、外国のルールと国内のルールにズレがある場合には注意が必要である。特に、分配政策や組入証券の評価(計理)に関するルールでズレがある場合に問題が生じる。例えば、国や地域によっては、日本で許される限度を超えてファンドからの分配をすることが許されている場合がある。こうして払い出されてくる分配金を日本の投資信託では収益として計上するため、収益分配金の原資となる。この結果、収益率が伴わなくとも収益分配金と表示され分配されてしまうということが起こりうる。
l ファンド・オブ・ファンズという言葉から、一般投資家は複数の既存の(優れた)ファンドに投資をするというイメージを抱きがちだが、FoFsが設定された日よりも投資先の投資信託証券の設定が後ということもある。つまり、FoFsの資金をもって投資先のファンドが新設されたと思しきケースが見られる。このようなケースでもルール上、適格なのか。
l ファンド・オブ・ファンズという言葉から、複数のファンドに投資をしているというイメージを抱きがちだが、実際には、資産の大半を1つの他社ファンドに投資をし、残りをもう1つの公社債及び短期金融商品に投資する自社ファンドに投資をしているものが多く存在する。然も後者への投資は、1%にも満たない状況である。この場合でも「複数の投資信託に投資をしている」ことになる。
l FoFsでは、投信委託会社の役割は組み入れている投資信託証券の選定と投資比率を決定することと説明されるが、投資対象も投資比率も基本的に固定化されているといえるものもある。しかも、この運用について、外部に委託されているケースが多々見られる。投資顧問会社の役割は何なのだろうか。投資対象、投資比率が固定の状況では、運用委託の意義が薄れかねないのではないか。更に、投資対象ファンドに信託報酬(運用報酬)がないものが存在するが、実質的な運用を担う投資対象ファンドに運用報酬を計上するのが筋ではないでしょうか。
2.目論見書や約款を調査したことによって出てきた疑問点、問題点
① 仕組を表示した図表がバラバラ(ファンドの特色と仕組みの項目に記載している仕組みの図表が異なる場合もある。)
② 投資対象をサブ・ファンドと表記されているものとクラスと表記されているものがある。サブ・ファンドとは何か、クラスとは何かの定義がなく、投資先のファンドの構造の開示が不十分。(この状況で、運用報告書に添付の開示内容は、サブ・ファンドのものとなっており、サブ・ファンドとクラスの関係について、何らかの説明は必要と思われる。)
③ 投信委託会社自身が投資先の外国籍の投資信託証券の投資顧問会社になっているケースも見られる。それなのに、投資先のファンド(クラス)とサブ・ファンドの関係について、満足できる開示ができていない。自分で運用しているのだから分かるはずなのに、開示に消極的なのはおかしくないか。
④ 投資対象ファンドとの報酬等のやり取りもファンドによってバラバラで不透明。投資対象ファンドの信託報酬が「なし」というものがある(営利企業にあって、対価のない役務の提供はありうるのだろうか)。このケースでは、FoFsの投資顧問会社と投資対象ファンドの投資顧問会社が同一グループの会社となっており、国内のグループ会社から支払われていると推察される。また、投資対象ファンドの信託報酬を「なし」としながら、委託会社から支払われているものも見受けられた。
- レクチャー後の意見交換時に出た意見
l 目論見書の見直しをして、表現や記載方法の統一を行ってきたが、目論見書の基本となっている投資信託約款については手つかずのままになっている。投資信託約款についても、用語や表現方法の統一が必要。協会等に働きかける必要あり。
l 投資先のファンドの構造(サブ・ファンドとクラス)について正確かつ適切に説明することを義務づける必要があるかも。
l 投資信託約款に市場の眼が届きにくいことも問題。もともと、投資信託約款は投信委託会社と信託銀行の間のものであって、投資家は当事者ではないという意識が投信委託会社側に根強くある。また、1998年の規制緩和以前は大蔵省の投資管理室の担当者に約款を事前に見せてチェックを受けていた。ある意味、約款を見てくれている人がいたが、98年に投資信託約款が事前承認制から届出制になってからは、実質、誰も投資信託約款をチェックしていない。同一会社の約款においても異なるものが野放しになっており、さらにこうした約款が自社に限らずコピペされ増殖している。簡易目論見書になってから、約款が添付されなくなっており、投資家が約款を見るということがなくなっていることも、投資信託約款が野放しになってしまう傾向に拍車をかけている。
l 追加型投資信託は、入ってくる投資家と出て行く投資家との間の公平を維持するために、日々のファンドの純資産価値=基準価額を算出し、基準価額で投資家の出入りを許すという画期的な仕組みを採用している。ファンドの純資産価値(基準価額)を正確に算出するということが生命線であるところ、計理ルールの異なる国や地域の投資信託証券を組み入れているFoFsでは、この原則がどこまで徹底して遵守されているか、懸念がないわけではない。
l 昔、公社債投信で、保有している債券を満期まで持ちきるからということで簿価評価をし、分配原資のポケットを作り、収益分配金を恣意的に操作していた時代があった。これは世の中が時価評価に切り替わる中で絶滅していったが、FoFsでは、海外の投資信託証券の組入が同様のポケットの役割を果たしているケースもあるのではないか。
l 実態を知るには、外国の投資信託証券に投資を行っているFoFsを何本か具体的に取り上げて、投資先の海外のファンドが組み入れている証券等がどう評価されているのかを調べてみることも必要だろう。監査法人や、そうしたファンドを設定運用している投信委託会社からヒアリングをしてみることもしてみてはどうか。
l 投資対象ファンドの信託報酬が「なし」というものがあるという件について、委託会社と投資対象ファンドの投資顧問会社との間で包括契約を締結し、信託報酬とは違う他の形で報酬が支払われているのではないか という指摘があった。
l あまりに清くしすぎると魚が棲まなくなるのがこの世界。透明性を高めてほしいというのは投資家側の当然のニーズではあるが、一方で、強く求めすぎると、さらに見えない方法で潜って利益を得ようとする。為替取引やデリバティブ取引のように相対で行われる取引で利益を上乗せした価格で取引するといったことが行われたりもしているのではないか。
以上