今回は、当会の事務局次長の坂本綾子の“この人に聞くシリーズ”の第三弾です。当会の基本会員で、金融消費者問題研究所代表の楠本くに代さんにお話を伺いました。
楠本さんのお話の中にフィデュシャリーという言葉が出てきますが、2000年頃からわが国でもよく言われるようになり、最近また話題になることが多くなっています。「信頼して託された者」とか「他人のために仕事をする者」という意味ですが、その概念の誕生の経緯を、このメールの最後に付けておきました。こちらもお読みいただけると幸いです。
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『フォスター・フォーラムだより』 No.20 2014年 8月22日
発行:不定期
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★―★ CONTENTS ★―★
- “この人に聞く”シリーズ 第3弾 〜 楠本くに代さん
2. 編集後記
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1. “この人に聞く”シリーズ 第三弾 〜 楠本くに代さん(金融消費者問題研究所代表)
今回は、金融消費者問題研究所の代表で、貸手責任(レンダー・ライアビリティ)や信任義務(フィデュシャリー・デューティ)を研究テーマとされている楠本くに代さんに、金融機関の果たすべき役割とは何かをテーマにお話を伺っています。
楠本さんのお話のエッセンスを紹介すると・・・
「証券業なら根本的な株式投資の教育こそが、信任義務では?」
「適切な商品の提供、販売時の適合性の原則遵守、誤認させないプロモーション―この3つが信任義務の核」
「初心者には投資信託よりも株式」
「消費者の信頼に応えられる信任義務者、銀行ならではの投資信託があってもいい」
「保険販売の際の適合性の原則を法律で義務付け、手数料の開示を」
「信任義務の一環として消費者教育を。行政と第三者の役割も重要」
詳しくは当会のホームページ(https://fosterforum.jp/)の「インタビュー」からお読みいただけます。
また、楠本さんの活動はこちらのページからご覧いただけます。
http://homepage3.nifty.com/financialconsu/
2. 編集後記
投資信託について、運用者の運用経歴等も含めた運用態勢に関する情報の開示や、手数料等に関する説明の充実を事業者に促すことを目的とした「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の改正が行われ、8月4日のパブリック・コメント終了と同時に適用となりました。
運用者の運用経歴等の開示は、一昨年開催された金融審議会の投信法制の見直しWGの席上で、島田知保委員とともに強く要望をしたものの、力及ばず義務化に至ることはできませんでしたが、こうして監督指針に盛り込まれたことで、広く業界慣行となっていくことが期待されます。
ただ、今回の監督指針では、同情報は運用報告書において開示することが求められていますが、運用報告書は受益者のための書類であって、投資家の投資判断のための書類ではありません。
やはり、米国で行われているように、目論見書での開示を義務づけるのが望ましいように思います。
もう一歩です。要望を出し続けていきましょう。
上記投信法WGの報告書に示された提言が、少しずつ形になってきています。
次号では、同報告書で示された“宿題”がどの程度進んでいるのかを検証してみたいと思っています。 (担当者:永沢裕美子)
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発行元/フォスター・フォーラム(良質な金融商品を育てる会)
★フィデュシャリーの誕生の背景
英米法では、信託における受益者と受託者との法的関係は「フィデュシャリー」とされており、それが患者‐医師、依頼人‐弁護士などさまざまな関係に適用されています。
フィデュシャリーについて理解するには、信託(トラスト)について理解することが必要になりますが、その起源については、12~13世紀ごろの封建制度下で利用されるようになったユース(use)が始まりであるという説が有力です。
ユースは「for the benefit of」を意味するラテン語と言われており、「誰々のために」財産を所有するという意味でした。
12世紀の頃、当時は女性や未成年者には土地の所有が認められておらず、このため、領主が十字軍に出征し戦死してしまうと、息子が成人に達していない場合にはその土地が封建諸侯によって没収されてしまうということが起こりました。こうした事態を回避し、残された妻子の生活費を捻出する方法として、領主は自分の信頼する友人に、領主が無事帰還した場合は当然だが、子供が成人に達した時には土地を返還するという約束を付して土地の所有権を移し、その経営を委託し、そこから上がる収益を妻子に渡すことを依頼して出征するという方法が考案されました。
つまり、領主およびその妻子が委託者ないし受益者(beneficiary)であって、領主に代わって土地を管理する友人が受託者(fiduciary)という関係がここに発生したのです。
これがユース、すなわち信託(トラスト)の始まりであったと言われています。
しかし、信頼していたはずの友人が心変わりしたり落ちぶれてしまって、預かった土地に手をつけてしまう事態が発生しました。
そうした時、すでに管理者(友人)に財産の所有権が移転しているため、正当な遺産相続人がその所有権を主張しても、厳格な普通法(コモン・ロー)の下では、その主張は認められることはありませんでした。
こうした不幸な事態を収拾する必要があるとして、大法官が問題の解決に当たることとなり、英国における平衡法(エクイティ)裁判所が誕生しました。
こうして、英国において、コモン・ローとエクイティの二つの法体系が形成されていきましたが、エクイティは、コモン・ローによって法的権利を保護できないような信託問題に対して、大法官が裁量的救済措置を施したところから始まりました。
エクイティはコモン・ローと対立するのではなく、コモン・ローをそのまま適用すると、法律的には合法であるが、良心的にみると不公平であるというようなケースにおいて、大法官が公平性(equity)の観点から受益者を救済しようとするものでした。
大法官は、受託者(領主の友人)がコモン・ロー上の所有者であると認めつつ、委託者(領主)との約束を実行すべきであり、約束を破るものは責任違反として追及したということです。
こうして「エクイティによる救済」の判例が集積され、それをもとにエクイティ問題を解決する衡平法裁判所(Court of Chancery)が創設され、1535年、ヘンリー8世の時代にユース法(Statue of Uses)が集大成されることになりました。
上記の説明は『信託の法務と実務』(三菱信託銀行、1990年)を参考にしたものですが、こうした歴史的背景を知ると、フィデュシャリーは英国で発達したトラスト(信託)や英米法のエクイティに深く関係して形成されてきた観念であることが分かります。
なお、フィデュシャリーは「受託者」と訳されることが一般的ですが、樋口範雄先生が『フィデュシャリー 「信認」の時代 信託と契約』(1999年、有斐閣)という本を出されてから、信託の受託者よりも広い概念として「信認」という訳語を使われる方も増えています。
楠本先生もそのお一人といえます。
(文責:永沢裕美子)